毎週Web句会第147回 森山文切選 にて、なんと、て、て、て、天選を頂きました!
脳ソテー羊が恋をした部分 犬井隆太
以下、選者の森山文切さんによる選評全文です。
天の句、その技と心
脳ソテー羊が恋をした部分 犬井隆太
※文中の”「わたし」”は句の主語、”私”は森山文切です。
中七下五だけであれば単にメルヘンチックな印象であるが、上五に持ってきた「脳ソテー」が効いた。
「脳」「羊」と、直接示してはいないものの「食べる」もパッと想起できる言葉で、これらから子供の時に見た映画『羊たちの沈黙』を真っ先に思い浮かべた。ネタバレになるので詳細は書かないが、レクター博士とクラリスの食事のシーンや、最後の飛行機のシーンは今でも鮮明に覚えている。確定的でない分、逆に怖さが増したシーンである。
意味に寄せて読むと、直接は示されていない料理人の存在が面白い。「わたし」はもちろんのこと、料理人も羊がどの部分で恋をするのか知っている。料理人はそれとわかる味と形状を維持したままソテーにする技術があり、「わたし」にはそれを認知する知識と味覚を持っていることになる。「わたし」とこの料理人の関係にはドラマがある。例えば、レクター博士とクラリスのような。
私は「脳ソテー」を食べたことがないし、多くの人がそれほど頻繁には食べないだろう。味は、私は想像するしかないが、内臓系だけに大人な味をイメージしている。「脳」の仕組みは複雑怪奇で現代科学をもってしても完全には解明されていない。イメージに寄せて読むと、羊の脳ソテーを食べて恋を感じている「わたし」は、ちょっとフクザツな大人の恋の真っ只中にいる。
大人の恋は、単純なメルヘンの世界ではない。怖くて、苦くて、フクザツで、さまざまなドラマがある。「脳ソテー」の意味とイメージが最大限主張に絡んだ強い表現力がある句となった。
自分でも気に入っている句なので、めちゃくちゃ嬉しいです♪
ありがとうございました!